ドキュメンタリー映画『カメラになった男—写真家 中平卓馬』
1960年代から70年代にかけて、先鋭的な写真と言葉で「政治の季節」を牽引した中平卓馬は、写真家としてはスランプに陥り77年に病に倒れた。記憶と言葉の大部分を失うこととなったが、それ以降、写真を撮ることが生活のほとんどすべてとなった。本作では中平に3年間密着、横浜の自宅周辺を日々撮影する姿や失われた記憶をなぞるようにかつて訪れた沖縄へと向かう姿を追った。
監督・制作・編集・撮影:小原真史
音楽:ブリジット・フォンテーヌ
出演:中平卓馬、荒木経惟、高良勉、東松照明、港千尋、森山大道ほか
2003年/DVD/カラー/91分
浅田彰(批評家)
この人を見よ。
アルコール中毒で記憶の大半を失い、ほとんど純粋なカメラ・アイに還元された写真家は、自己解体の手段だったはずの撮影行為を通じて自己再構築の営みを続ける。
そのあげくわれわれの眼前に登場するのは、猫のようにしなやかでシャープな「新しい人」だ。中平卓馬。ヴィデオ・カメラを通して見るこの「新しい人」の姿から、われわれは目を離すことができない。
伊藤俊治(美術史)
日本近代写真の聖痕を体中に刻み込みながら透明な無意識の暗箱を旅する男のかくれもなき名ドキュマン!
高梨豊(写真家)
こんなにたおやかで透明な写真家を見るのは初めてである。これを可能にしたのは批評家の眼であり、愛である。
森山大道(写真家)
ラディカルにしてファンキーな中平卓馬が、スクリーンの向うから観る者たちへと、またしても挑発を仕掛けてくる……